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マウスピース話その2

昨日につづいてマウスピースのおはなし。


今回は今まで話してはいない過去の失敗談を…


まだ20代だった頃、とある音楽教室でトランペット講師をしていた時のお話です。

ある日、中学生の男の子が入会してきました。吹奏楽部に入部したものの、思うように上達せず、習ってみようとやってきたとのことでした。


レッスンを始めてすぐに、その子の使っているマウスピースに目がとまりました。

とてもカップ(えぐり)の浅いサイズのマウスピースを使っているのです。

聞くと部室に余っていたマウスピースはこれだけなのでこれを使っているとのことでした。


昨日すこし書きましたが、演奏の用途、音楽のジャンルによってある程度マウスピースのサイズには傾向があります。


彼の使っていたマウスピースはビッグバンドのリード(高音担当)の人やジャズプレーヤーの人が選ぶようなとても浅いカップサイズのマウスピースだったのです。

基本的にはB♭管トランペットで使うマウスピースとしては吹奏楽やオーケストラではほぼ使わないタイプで、極端に明るいサウンド、(吹き方を知っていれば)高音域は出やすいメッリとはある代わりに扱いづらく、低音域や細かいニュアンス、周りにブレンドするようなふくよかで柔らかい音にはならない、そういうタイプのマウスピースでした。


その子の場合も案の定マウスピースによって本来吹けるフレーズもほとんど吹けず、試しに僕のマウスピースを吹いてもらうと今まで吹けなかったフレーズが吹けたりと、使っているマウスピースによる弊害はあまりにも大きすぎました。


「練習方法云々の前に、吹奏楽を続けていくのであればマウスピースは変えるべき。」

普段はここまで断定的な言い方はしないのですが、そう伝えました。


しかしなかなかマウスピースを変えるということにはなりませんでした。「お金もかかることだから今じゃなくてもいい、クリスマスやお年玉で買ってみてもいいんじゃない?」そう言ってみても「そうですね」とはなりませんでした。

そして、ほどなくしてその子は教室をやめてしまいました。


お母さんから教室に告げられた理由は「講師がマウスピースを執拗に買わせようとしてくる」でした。


今思えば自分も相当未熟だったなと思います。


誤解のないように断りますが、レッスンで使う教則本を除いて、今も昔も僕は生徒さんに楽器やマウスピースを買うように押し売りのような態度をとったことはありません。


実際問題として本人の努力量や技術力以外で楽器やマウスピースの相性的にネックになる場合はありますが、そのときも「それを変えることで改善する可能性がある」ことは伝えますが、判断やタイミングは本人が必要になった時点で検討、判断すればよいことだと一貫して考え、そう伝えています。


教室を辞めますと聞いたタイミングは、ちょうど僕からも「レッスンを1ヶ月休会してもいいのでその分のお金でマウスピースを買った方がいい」と言おうと決めていたタイミングでした。


その子が教室を辞めること自体は大した問題ではありませんでした。彼がうまく演奏できず苦しんでいるのがマウスピースの問題だということがうまくその子やお母さんに伝えれなかったこと、それによって、もしかすると近い将来、楽しめた可能性もあるトランペット自体をうまく吹けないからという理由で辞めてしまうかもしれないということがショックでした。


その子の話をもっと聞いておけば…。お母さんともっとコミュニケーションをとっておけば…。今でもたまに思い出してしまう、自分にとって忘れられない苦い経験です。

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